旅先としては港や旧御用邸以外にこれといった見どころがなく、富士や伊豆へ向かうアジア団体客の踏み台となる沼津。
かつて栄華を誇った大アーケード街はほぼほぼシャッターを下ろして薄暗き様よ。
地方都市のご多分にもれず、モータライゼーションに対応できなかった中心部商業の地盤沈下は、いまさらJRを高架化をしたところで、もうどうにもならないじゃねーかという段階です。
そんな干からびかけた沼津の観光商業界を、束の間潤す、ひとすくいの清水。
2016年にスタートしたアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台として描かれたことで、全国のヲタク共から暑苦しい視線を集め、沼津の街は聖地巡礼の人気スポットになっているのです。
かくいう私めも、アニメはくまなく観ましたし、劇場版やライブにも足を運んでしまうほどの痛々しいファンに仕上がっています。
ぶっちゃけ、作品そのものよりは、登場人物とリンクしたアイドル活動をがんばっている声優ユニット、Aqoursが大好きでさ!
沼津旅行に食だけではない楽しみができました。
もともと地域密着や町おこし的な地元愛要素をかなり意識して制作されている作品なのです。
作中では何気ない街の風景が忠実に描かれており、アニメを観て「あそこの施設じゃん!」とか、逆にPVの舞台になっていたのはここだったのか的な出会いが、突如訪れて「わぁーっ」となるのです。地元のお店の紹介を盛り込んだラジオドラマとかもあるしね。
先だっての記事で、沼津で食べてない間は何をして過ごせばいいのかという問題を挙げましたが、聖地巡礼は一つの解答となりえます。寂びた風景でさえ、物語やキャラクターで彩られることにより、実体以上の価値をまとうからです。
ヨハネちゃんちのお隣のホテルに泊まりながら、こっから浦女に通うのはしんどいなぁなどとキモい妄想を繰り広げたりね。単なる静岡旅行ではなく、作品世界にまで足先を突っ込めるのがいいところ。
実際、街を歩いていると、アニメゆかりのスポットに佇み、感慨深げにニヤついている謎のオッサン達に出くわす率も高くてさ、やはりこれは馬鹿にできませんて。不気味な観光客は私一人だけではないんだよってことを強く申し上げておきたいのです。
ちなみに当初の経済波及効果は5~60億円との試算もありましたが、その後もそうそう衰えずに推移しているのではないかと感じます。
自治体や各種団体も、アニメとのコラボに積極的で、諸々のポスターや広報物、キャンペーンなどに引っ張りだこ。
農協注力の商品パッケージまで進出しており、ラブライブは今や三國連太郎さんを凌ぐほどの地元愛キャラを確立しているといえます。
商店街の装飾もすっかりラブライブに染まっている状況。
風景のそこかしこにキャラクターが見つかります。
地元商店街のお店も、コラボに好意的なところが多く、一見、アニメとは似つかわしくないような業種のショーウィンドーにも、お店手作りの装飾がなされたりして、ファンとしてはほっこり嬉しい気分になるわけよ。
そんなわけで、実際はすっかり衰退して、うら寂しい風景なのですが、ヲタクの目から見るとまた違うホットな街に映る沼津です。
ファンをもてなしてくれる姿勢と、街の人々も一緒になって楽しんでくれているところが良いよな。
スタンプラリーや、缶バッチ収集を、街歩きにつなげる上手い仕組みもできています。
一般的にアニメグッズというと、版権絵を使いまわした代わりばえのしないものが常で、これは全国のショップで購入できますから、ご当地巡礼の記念品とはなりえません。
せいぜい沼津限定の絵柄が提供されれば御の字なところ、ここではもっとずっと生産ロットの少ない、地元店舗とのコラボ絵柄を100種類以上も展開しているのがすごいところ。
また、このデザインがやっつけじゃなく、カワイイんだわぁ。つい集めたくなっちゃうもん。
ただ、それも曲がり角。
アニメの影響で街を訪れる人が増え、通常の観光では素通りされる個人店や風景を巡る仕組みもできました。しかし、本当に大事なのはその後なんだと思います。
国内有数の強力なコンテンツとはいえ、ブームは一過性ですよ。ラブライブで沼津の魅力に触れた人々をこの先どう繋ぎとめていくかはお店や街本来の地力が問われます。
みんな、せっかく来たんだから、なんか買って帰りたい欲がありますよね。とりあえず缶バッジをあてがう次は、お店の本業、本来の商品へと需要をつなげていきたいところよ。
さらに一歩進めた、柔軟なローカルコラボへの対応も期待したいのです。
さて、今回はアニメのメイン舞台となった内浦地区へも足を伸ばしました。
アクセスは沼津駅からの路線バスで1時間弱とビミョーに遠いのです。
どうせなら駅から自転車を漕いで行くのも気持ちいいかなと考えたのですが、これは、はっきりおすすめしません。距離は片道15kmほどなのですが、道が狭くて、ガッタガタだし、交通量が多いのよ。
風景も江浦湾に出るあたりからやっとこさ海辺っぽくなってくるので、どうしてもという方は静浦東のサイクルステーションを始発点にするか、韮山、伊豆長岡の方面からのアクセスが良いと思います。
ちなみに聖地巡礼の足となる東海バスや伊豆箱根バスでは、ラッピングバスの運行があり、沼津駅前ではよく見かけますよ。
車内アナウンスの一部を声優さんが行うサービスもあって、やはり車内でニヤつく不審なオジサンになってしまいます。
なお、個人的にはお隣の三島駅から出ている駿豆線の「HAPPY PARTY TRAIN号」が最胸熱で、予期せずに出会った時は涙出そうになりましたよ。
田舎らしくバス代もけっこう高いんですよ。沼津駅から三の浦総合案内所のある長浜まで乗って790円。
交通については、東海バスでレジャー施設の入場券とセットになった往復券を販売しており、それを利用するのが賢いと思います。
ただ、これにも難があり、淡島とみとしー、どっちも巡りたいファンには対応してないんですね。さらに要望するならば、便の悪い内浦湾エリアをフリー乗車できる聖地満喫チケットを発売するべきだったと思います。ツメが甘いぞ、東海バス!
あとさ、チケットを売ってる沼津駅前の案内所はさ、お昼休みに1時間もシャッター閉めちゃうからくれぐれも注意してね! 窓口の前で唖然としたぞ。
今回は「あわしまマリンパーク」の方を覗いてみましたよ。
なんといっても、港から船で向かうレジャー感が決め手!
もともとは東相銀の怪物、長田氏絡みの開発地で、例によって曰く有りげな物件だったのだけど、アニメでは小原家所有という設定の淡島ホテルも含め、先ごろ破綻。買収されたばかりなんだよね。
ぶっちゃけ、この狭いエリア内でキャラのかぶったマリンパークが顧客を食い合っている状況は異常だし、まぢでラブライブがなかったら、三津シーパラダイスを含め、どうなっていたのか。
今後は共通券を発行したり、船で相互に顧客輸送をしたり、手に手を取り合って、シナジーを狙っていくしか無いんじゃないかと思うんだけどな。
ラッピング船内には小宮有紗さんのサインが!
淡島はすぐ目の前なので、船にはほんのちょっとしか乗らないんだけれど、遠くに富士山を眺めながらの乗船はとても気持ちが良く、それだけでも、来てよかったなぁと思いました。
ここら辺まで出て来ると、海の景色や色彩は沼津港周辺とぜんぜん違うから、いかにも旅に来たー!って感じがしますよ。
小さな淡島水族館。平日はお客さんもガラガラです。
大手に比べると、ぶっちゃけ、しょぼい展示物。
その代わり、たくさん貼られた紹介文に、飼育員さんのがんばりや工夫、ぬくもりを感じることができて、これはこれで良い運営だなと思いました。
イルカとあしかのショーも見られます。
果南ちゃんちでは、なぜか世界のカエルが飼われています。これは……好き好きだね。
山を登ると淡島神社がありますが、登るのに3、40分かかるということで、胸を張って戦略的撤退を選択です。ファンである前に、一人の膝弱きデブであるからね!
あわしまマリンパークから、次の聖地、三津海水浴場へ向かう際に困るのが、アクセス手段。
もちろん、タクシーはいないし、バスは基本30分間隔なので、頻繁に乗り降りはできません。一応、時間貸しのレンタサイクルが設置されているのですが、現在、内浦エリア内にポートはここ1箇所しか無く、帰りは、またはるばる漕いで戻ってこなくてはならない欠陥です。
ここらの観光は基本的に自家用車利用を想定しているんでしょうけれど、沼津市街とは違い聖地巡礼の受け入れ体制は整っているとは言えません。
ちなみにハローサイクリングはアプリもずっと動作不良だし、沼津市内で試しに利用したら、いきなり機器不具合のトラブルになり、課金が止まらねぇ! その後の対応も梨の礫だったりで、随分と苦労させられたから、私は二度と使いませんよ!
次のバスが1時間来ないし、距離は2km程度なので、私は歩きました。
ただ、気持ち良き海辺とはいえ、特に散策が楽しい道でもないのよね。
本来ならば、途中の内浦漁港直営の「いけすや」でお昼食って、「松月」でお茶しながら、ゆったり向かう計画だったのが、どっちもお休みだったし……コロナめ……
やっと、たどりついた内浦の旅館街もすっかり寂れきっておりました。
もちろん、いかにもな伊豆海岸って雰囲気で、旅情を掻き立てる要素はあります。
ただ、どこかの商店が開いてるわけでもなく、飲食できる場所も一握り。実際、ここに泊まったとして、滞在中に何をしてすごせば良いのか、想像がつきません。夏以外のシーズンは特になんも無ぇ。
そういう点でもラブライブは特需になったと思います。
もっとも、そのビッグウエーブを上手いこと商売につなげていくほどの機動性や体力は無かったんだろうなぁ。
件の砂浜もすごく狭くって、びっくりしたわ!
かつて、この地が開発された頃に遊びに来ていた観光客達はいったい何を目当てにしていたのか、さっぱりわからない。釣りか、ダイビングか? ウエットスーツの女子高生が指導してくれるなら前向きに考えるけどな!
また、この内浦へのアクセスについても、千鳥観光汽船が頑張って、ここ数年だけでも沼津港⇔三津港の航路を設定してくれていれば、路線バス利用よりも魅力的な手段になったのにと残念に思います。
千歌ちゃんちです!
実は初日は伊豆長岡に泊まって、二日目はこの「安田屋旅館」から界隈を巡る家族旅行も計画していたのですが、ファン以外を連れてきたら確実にクレーム案件だったかもしれませんね。
いや、いい土地だとは思うのですよ。無論、我々ファンには他に代えがたき価値があります。
ただ、一般的には斜陽の角度がきつすぎる観光地です。
それでも、やっぱ、ファンは来ていますね。
砂にAqoursの文字を書くという、お約束をすべく、周囲の目を気にしながら砂浜に降りたのですが、すでにそこかしこに書かれてやがる!! 平日なのに!!
めんどくさくなって、そんな1つを撮影して、オッケーといたしました。
途中、三津シーパラダイスを素通りしつつ、さらに10分ほど歩いて、三の浦総合案内所にたどり着きます。潰れたファミレスっぽいな。
いわゆる観光案内所でありますが、中はこんなふうにグッズやビジュアルに埋め尽くされたファンの館となっておりました。なお、ここで何を案内したいのかはわからない!
すぐ裏には黒澤家となる大川家長屋門。
さらに10分ほど歩くとJAの直売所があり、目の前が長浜城跡のバス停なので、そこからバスに乗って帰ってきましたよ。
もちろん、ここまで来たのはカンカン蜜柑なお土産を手配するためですよ。他にお店がないもんで!
浦女こと長井崎中学は、遠くから眺めるだけで、かんべんしといたるわ!
この日はお昼も食べそこねて、もう元気が一粒も残ってないからね!
そんな感じの2020年沼津旅でありました。
アニメやAqoursの活動も延長戦が終わり、以降は収束に向かいます。
ただ、もはや誰一人も読んだことがねぇ金色夜叉のDV像をシンボルにする熱海のように、たとえ終わった作品であっても、街とともにキャラクターが生き続けるようなことがあっても良いんじゃないかなと思ったりもするのです。
その点、沼津ではいろんな試みがあり、また蓄積もできつつあると思うので、この先も注目したいです。
コメント一覧
こういう記事を待っていました!
オタク視点だとポスターやラッピングバスを見るだけで
青空Jumping Heartな気持ちになりますが、
視点をちょっと横に向けると、寂れゆく地方都市の現実が見えるのですね。
浦の星女学院が廃校になるのも現実にリンクした流れなのかもしれませんね。
>エビオスさん
オタクもリピーターが増えてくると、Next SPARKLINGが必要よね。
以降は、沼津本来の人や街の魅力がコンテンツの主役になってきますから、
それらへ華を添える存在として、長くコラボが続けばいいなと思います。
何方かが仰ってましたが「観光には物語性が必要」と。
とはいえ古の謂れなんておいそれと増やせないことを考えると
新たなる物語性の付与が必要で、それにはアニメって最適かと思います。
でも町の至る所にキャラの絵がそのまま貼りだされてるのは目に痛いな、と
思ってしまうのはもう自分がトシだからですかね。
林静一風のお茶のパッケージは結構いい落としどころかなと思いました。
>ミサイル超獣さん
キャラ設定画のパネルがドンと置かれるだけのアニメ街おこしとくらべると、
缶バッジなど、ローカルに馴染んだデザイン展開ができた方だと思います。
ただ、諸々の小さな企画も含め東京で管理できる範囲には限度があますから、ある程度、ご当地に権限を移譲して、許諾展開していく必要があると思います。